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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
その策でさ。そこから思いついた芸当に違いありません。万八の大食会で一升も飲まされた人が、死んだと聞かされた時、私は江戸の人間は、案外智慧なしだと思ってましたよ」
こう聞いたので、銅鑼亀さんは、しめたと町内の顔役からほんの二刻ばかり、風呂屋総休みの交渉をやって貰った訳である。
――で賑やかにそこで一杯飲んでいると、
「大変です、伝公が血を吐いて、死んだそうです」
と、知らせに来たものがある。
まさか、死ぬ程のこともあるまいと思っていたので、
「えっ!」と色を変えて総立ちになった。
「死んだとなると、こいつア検死が面倒だ、とにかく、抛っちゃおけねえ」
今さら驚いて顔役と亀親方だけが、例の浅蜊をザクザク踏みしめる路地の奥を訪れた。
白粉よごれのした女が、伝公の死骸にすがって泣いていた。
自業自得とは言いながら、気の毒にもなって、だんだん事情を聞き取ってみると、銅鑼屋の亀さんは吃驚した。その女が、前々話を聞いていた、左次郎の養母に当るお咲だった。
すると、もしや――と思ったので、男の方を聞いてみると、醤油賭の伝公というのは、江戸へ来てからの変名で、もとは左次郎の父に仕えていた仲間の一平。