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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
というて、父但馬守は、いかなる道理をつけて参られようと、断じて、お手合せはいたさぬ。……で、それがしが代ろうと思う。御不服はないか」
「む。三厳どのか」
「……いざ」
「いや!」
と、大機は、ふいに首を振って、
「其許とは試合わん」
「なぜ」
「元々、御子息たちを、相手に望んで来たのではない」
「柳生流は、治国の剣、見国の兵法を本義といたす。ゆえにお止流でもある。何度いっても同じ事」
「ではなぜ、諸国に流派をゆるし、諸藩に同流の弟子を」
「うるさい」
「なに」
「そのような世話、汝らにはうけん。帰れっ」
「喧嘩を売るか」
「汝れこそ」
「どこに」
「その眼だ。人の生命を狙っているその眼。察するところ、汝は刺客だ。父上のお命を窺いに来たな」
「――げっ」
大機は、木剣を抛った。脇差を抜くなり、十兵衛へ突いて来たのである。だが十兵衛の振り下ろした木剣は、大機の頭蓋骨を砕いて、熟れた柘榴のようにしてしまった。
仆れるせつな大機が、ギャッ――といった声が、しばらく屋の棟から離れないように耳についていた。十兵衛は、突っ立ったまま、片方の目を二つ三つしばだたくように顔をしかめた。大機の脳骨から刎ね飛んだ味噌のような血の粒が、睫毛や顔にかかったからであった。