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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
春の雁
春の雁
からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰にひっそりしている色街であった。この深川では、夜などは見たこともないが、かえって昼間はどうかすると、御旅の裏の草ッ原で、子を連れて狐が陽なたに遊んでいたりする事があるという。
――通船楼の若いおかみさんは、
「何だえ、包み始めてさ。……負けずに持って帰るつもりかえ」
歯ぎれのいい女だけに、笑いながら云っても、人を蔑むように美しいのである。
清吉は、頭を掻いて、
「だって、御寮人様、何ぼなんでも、この唐桟を、十七両だなんて」
「高価すぎるかえ」
「ご冗戯でしょう。新渡じゃあござんせんぜ。これくらいな古渡りは、長崎だって滅多にもうある品じゃないんで」
内緒部屋の障子の桟には、絶えず波の影が揺らいでいた。すぐ裏手が、晩には猪牙の客を迎える狭い河だった。
「どうするのさ」
通船楼の若いおかみさんは、清吉には苦手なお客様とみえる。せめて二十両でといえば、良人に着せるのだから、自分の一存ではそう高く買えないと云う。
「じゃあ、とにかく、置いて参りますから、旦那様にもお目にかけた上でひとつ……」
そこらへ並び散らしてある他の鼈甲物だの、縞だの、珊瑚だの、香料だの、青磁だの、支那文人画の小点などを、片手に提げられるくらいな包みに小ぢんまりと纏めてしまうと、