Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens

Aozora Bunko

三

ておいてくれ」

「と、とんでもない」

権十は押し返したが、

「寸志だ」

いい捨てて、磋磯之介は、常陸岸の蕭々と暗い風のそよぐ広原へ駈け去ってしまった。

三

――生きている!

こう自覚する自分の身が、思えばふしぎな気がしてならない。

同志と謀って、水戸から江戸へさして出かけて行く時には、この道を、二度と生きて通ろうなどとは思ってもみなかった。

(関殿はどうしたろう? 金子様や、鯉淵要人、佐野竹之介殿なども?)

桜田のあの日の――同志の悽惨な顔つきが眼にうかぶ。

闇の中を歩いていても、海後磋磯之介の眼には、未だに白い光りものがチラチラ見えてならない、あの日の吹雪の幻影である。同志の者と、井伊家の臣下とが、滅茶滅茶に斬りむすび合った刃の幻影である――

「成功した」

若い彼の心臓は、いっぱいな功名心と、報国心と、それに当って尽したという満足感で緊ち切れそうになっていた。

この一挙で、幕府の方針は一変し、国内は明るくなる。尊王攘夷を奉じる士気はさらにふるい、たとえ、一時は脱藩の汚名をうけても、やがては藩侯へ赤誠もとどくものと――彼の胸中には俯仰して恥じる何ものもなかった。