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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
二
「孫平治、寝てもよい。もう寝め」
と、仰っしゃった後でも――夜半にふと窺ってみると、御主人の部屋だけには灯がついていた。
いったい、あんなに書物を読まなければ、人間というものは、一人前になれないものか。偉い武将にはなれないのか。さてさて、修養というものも、大へんなものではある。――と、魯鈍に生れたわしなどは、御主人の余りな精進に、むしろ胆がちぢまってしまう。
しかし――
余りに光秀様の聡明な眼や学識のある弁才は、朝倉家の家中では、かえって冷たく見られたらしい。なぜなら、その頃、太守の義景公を始め朝倉家の家中というものは、非常に紊れていた。国主の閨門が、権勢を持っていた。家中の士は、華美でおべっかで、本願寺の門徒衆とは、たえず小戦争をやったり、妥協したり、陰謀が曝露されたり――どうも始末が悪かった。
「長くは留まる国でない」
光秀様は、時折、嘆息した。今さら悔いておられるらしく、楽しまない日が多かった。
折ふしここに、御主人の憂愁を開く人があらわれた。
室町将軍家の管領の家すじ、細川兵部大輔藤孝というお方だった。
二
三好一族の叛乱に趁われて、将軍義昭公は、諸国を亡命して、逃げあるいていた。