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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
大日越え
一
味方の死骸や、敵の死骸が、灰の下から幾つ出て来たか数知れなかった。
すると三日目の午ごろ。戦後の焼け跡を、騎馬で視察に来た斎藤家の侍頭が、
「や。猿じゃないか。どうしたのだ貴様あ」
と、驚いた顔して、働いている獄人たちの中から、猿を呼び出して、しばらく馬上から何か訊ねていた。
後で聞けば、その士大将は、尾張海東郷の野武士あがりの者で、猿が同じ土地の蜂須賀村の野武士、小六という者のやしきにいたころに知っている人だった。
――だが、その時は、わしはじめ、皆目をみはって、
(どうして猿が、あんなお士と知っているのか)
と、吃驚したものだった。
大日越え
一
四日間の労役は楽しかったが、それが終ると、わし達はまた、以前の常闇の沼みたいな牢へ帰って、盲の魚のようにうようよしていた。
牢へ帰った翌日、猿は皆へ向って、
「わたしも近いうちに、いよいよ、皆さんとお別れする事になった。何日までもお前方と一緒に暮していたいが、そうもいかないからなあ」
と、いった。
猿が侍大将と親しそうに口をきいた事を、わし始め見たので、誰も、疑わなかった。
「いよいよ、お別れか。ああ……」
「名残惜しいなあ」