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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
十五
十五
「おわかれに来た。――棟方殿、お欣びはこの間云ったから、今日は、御健在を祈って去る」
「ええ旅へか。――まあ上がらんか」
「交友は水の如く淡々たるをよしとする――と誰やら云った。そのうちにまた、この地方へ来たら寄ろう」
「急だなあ」
「ちっとも急な事はないが、これは、坊主の本来の相なのだ。それよりも貴公は体に気をつけてくれ。大望の事業を達成した後というものは、誰しも落胆するものだ。髪の毛にも白いものが急に殖えて見えるからなあ」
窓の外で、立話をしたきりで、主水は飄然と先の旅へ去った。
――翌る朝は、夜の明けないうちから、津軽平の何十里に、笛太鼓の音が流れていた。初夏の薫風に白いつばさを拡げて、青田の上を白鷺が群游していた。
五頭の荷駄に十樽の酒をつけ、一頭の馬には肴を負わせ、他にも町の者や百姓達が、手車に何やら積んだり担いだりして、五所川原から朝風の中を急いで来るのがやがて見える――
祭り囃子の一組が、それに交じって、景気をつけた。馬の鈴までがすばらしくりんりんと今朝はよく鳴るのだ。
「お珠さんを乗せてゆけ、与右衛門様のお嬢様をここからお祭りしてゆけ」