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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
ゆうべ、一番さきに、彼と懇意になった富森助右衛門が何かのことから、内蔵助殿はあれで冬はとても寒がりやなので――と話したのを記憶していて、この計らいをしてくれたのだろう。好意どころか、生命がけの接待なのだ。一同は、火の暖かさよりも、伝右衛門の心に胸が熱くなった。
「これで、夜に入っても、いくらかはおしのぎようござろう」
伝右衛門は、満足そうに、
「――わけても、大石殿はの」
と、柔和な笑顔を送った。
内蔵助は、遠くから、
「伝右どの」
いっぱいな感謝が、その眼ざしと、その一礼とで相手の心に映った。
「お気持は、頂戴いたした。しかし、公儀の御断罪を待つ私ども。……身に余りまする。お火鉢は、何とぞお退げおきを」
「ははは。聞えましたな」
「助右衛門が、いらざる無駄ばなし、寒さなど、とやこう申す境遇ではござらぬ」
「御心配くださるな。唯今、上役と口争いはいたしたが、ちょうどそこへ、越中守様から、明日は御一同へも、精進をさし上げたいというお沙汰が下った。殿様御自身、明日は、愛宕神社へ、御祈願に参られますそうな。……お分りであろう。……火鉢などは、問題でない。藤兵衛もそれを聞いて、二言とない顔。