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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
「何じゃ、それや聞きたい」
「十郎左が手功ばなし、吉良殿の寝間を探った一件じゃ」
「それや、聞いた」
「いや、それに絡んでの話じゃ。堀部殿は、まだ、みんなは話しておられぬのじゃ。伝右殿、聞きとうないか、十郎左は、色男でござる」
「いけないっ。謝る」
十郎左は、あわてて、
「それだけは、勘弁せい。飲む……飲む……。その代りに、伝右殿、あしたはまた、御典医を、おねがい――」
「いや、飲んで貰うより、その話、聞きとうなった。何でござる、十郎左殿の手功ばなしに絡む事とは」
「知らん、知らん、真言秘密と申すなり」
「ははは。見ろ、十郎左が、あの困ったらしい顔を」
そんな、賑やかだった前の晩を忘れ去ったように、翌くる日の三日は、皆、せっせと、故郷や知己へ、手紙を書いていた。ことに、内蔵助、小野寺十内など、長文で細字に、半日も、筆をねぶって、煙草の所望も出ないのである。
「はてな」
伝右衛門は、いつもと違った人々の眉宇を感じた。
と、夜になって、上屋敷から使者が来た。沈痛な夜気が詰所にみちた。
浪士の裁決はついたのである。幕府の内意が、その日、四家へ向って発しられたのだ。
四十六名、切腹。