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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
「女はいずれ、大機の身寄りの者だろう。――ま、それはよいがだ。あの綾部大機とは何者か、そちは心得ておるか」
「詳しいことは存じません」
「佐竹の家中に縁者があるの、北陸の者だのといって来たが、真っ赤な嘘だ、肥後訛りがあるなと、わしは睨んでいた。案の定、死骸を検めてみると、懐中には祖先の系図や、遺書など所持していた」
「遺書を……ですか」
「さればよ、死ぬ気で、柳生家の門へやって来たのだ。お父上の但馬守を主家の仇と呪い、是が非でも、父上に近づいて、刺し交える覚悟で来た漢よ」
「解せぬ事ではございませぬか……。お父上に対して、肥後浪人が主家の仇などとは」
「所謂ない事ではない。父但馬守は、過ぐる寛永七年この方、新たに設けられた幕府の職制、大目付という要職に就かれて、剣道師範役を兼ねてお勤めになっておられる」
「存じております。家光公の御信任あつく、お父上も御辞退しかねて、当時よほどな御決心でおうけなされたとかで……」
「嫌な役だ。誰でも逃げたい憎まれ役なのだ。……なぜといえば、大坂落城以来、徳川家に随身してきた大名のうちには、肚からの随身でないものが幾らもある。また御政治の方針からいっても、大藩の封地は、できる限り、削り取るか、取潰すか、せねばならぬ。