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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
諸国の女の世界ばかりを花客先に廻っているので、よく儲けもするが、
(今に見な、木乃伊取りが木乃伊になって、何か女で躓くから)
と、仲間の老人株からよく云われていたが、清吉は肚の中で、
(ふん、そんな甘いんじゃねえ)
と、笑う者をかえって嗤っていた。
だが――今度だけは、少しその気持のぐらつきを、自分でも認めないわけにはゆかなかった。
ぷーんと藍の香のたかい袷の仕つけ糸を抜いたばかりなのを着込んで、今日も、灯ともし頃から、わざと人目離れた場末の新石場の金子屋へ出かけてゆくと、
「おや、清どん」
八幡横町で、ばったり、通船楼の若いおかみさんに出会ってしまった。
「やあ、どちらへ」
清吉が、てれて云うと、
「どちらとは、こちから聞くところだよ。おまえさん、先月の初旬には、もう長崎へ帰る帰ると云っていたのに、今頃まで、まだ深川にいたのかえ」
「ええ……実は少し、掛金の寄らない先様があるもんですから」
「嘘をお云い。何でも近頃は、せっせと金子屋へ通って、秀八と会っているということじゃないか」
「誰がそんな事を云いましたか」
「云わなくたって、あたしにはちゃんと判っている。