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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens

Aozora Bunko

――と云っても、ただの「遊び」でそれをしているほど、彼はまだ枯淡な粋人では勿論なかった。やはり秀八のずば抜けた緻容と、侠な辰巳肌のうちに、どことなく打ち潤っている窶れの美しさが、通船楼で見た時から受けたつよい魅力であった。

あれから、わざとこの場末に避けて、七、八回会っていた。いつでも何か物案じな秀八の眸だった。金の事なら――とあっさり引きうけたのが今夜の事となったのである。

もっとも、その前後に秀八が杯の嘆息に、

(いッそ、他国へ行ってしまいたい)

と、二、三度つぶやいた。

清吉も心の裡で、

(この女となら――)

と、思わないでもない。長崎へ行かないかと云えば、一緒に逃げて来そうな気振もある。

けれど、それを条件に、金を出すのは、辰巳遊びでいう――野暮というものになろうし、また、折角の金が死ぬと考えて黙って――女の心のうごきを、彼は、見ようとしていた。

半刻ほど、静かに飲んでいると、秀八は急に落着かない顔して――

「やっぱり、わたしは今夜のうちに済まして来よう。清吉さん、このお金の費い途がついたら、わたしを連れて、すぐ江戸を立ってくれますか」

自分の胸だけで、もう決めていたような口吻だった。