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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
「寒い……。風邪気味かな」
呟いて、一頻り咳込む。
その前に、一碗の柚湯をすすめて、若い小間使が、彼の背へ廻った。
やさしい手が、背を撫でているうちに、咳が鎮まった。
但馬守は、柚湯を取り上げながら、ふと、見馴れぬその小間使に、
「誰じゃ、其女は」
「はい。由利と申しまする」
「新参か」
「去年の十月末、御奉公に上がり、二月の下勤めをいたしまして、このお正月から、奥の御用をさせて戴いております」
「幾歳だな」
「十九になりました」
但馬守はそれなり沈黙していたが、用人の笹尾喜内が、
「若殿たち、書院にお揃いでございます」
と、告げると、そうかと頷いて、更衣部屋にかくれ、老女の世話で、衣服を着かえると、やがて奥書院へ歩いて行った。
十兵衛と右門のふたりが、並んで坐っていた。
「又十郎はいかがいたした」
但馬守は、着座するとすぐ、不機嫌にそれを十兵衛に詰問った。十兵衛は、嘯いて、
「何処へ出ましたやら」
と、答えを外らし、
「御休養の暇もなく、父上にも、御疲労にございましょう」
「天下のお為と思えば、この老骨の死花。疲れは厭わぬ」
「ですが、大目付などと申すお役目は、自体、お父上の人柄にはないものでしょう。