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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
すると囚人たちは、われがちに、その僅かな太陽の光を取囲んで、爪の伸びた足の先だの、蝋みたいな青い手だのを差し伸べ、
「アア、お太陽さまだ」
「陽の光だ……」
眩しげに、見入っているだけでも、無限に楽しめるように、そこの陽なたの翳るまでは、誰ひとり動こうともしなかった。
ある者は、その光で虱をつぶし、ある者は悪党のくせに、合掌している奴もある。
娑婆が曇っている日のほかは、毎日の事だった。もし誰かが、一枚の板を切窓の外から打ちつけて、獄人どもからこの一つの愉快を奪ったら、それだけでも、中の人間はみな自然萎み死んでしまうだろう。
だが、猿だけは、一度もまだその仲間に交じらないので、ある時、蜘蛛六が、
「おい猿、おめえにも少し、天道さまをお裾わけしてやるから、こっちへ来ねえ」
と、声をかけると、
「いえ、たくさんです。私にはいつも陽が当っていますから」
と、猿がいった。
「嘘をいやがれ。どこに陽が当っている。唐変木め」
「でも、私には、腹ん中に、天道様があるんで、腹ん中の天道様は、晴も曇も、暗闇もありませんからね」
「法螺も、そこまでふけば、罪はねえ」
蜘蛛六は、手洟をひッかけるような顔して嘲ったが、何ぞ知らん、それから五十日、百日と日が経つうち、いつか猿はこの獄内で、ほんとに闇を照らす太陽になってしまったのである。