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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
こいつがまた、いい加減な小才を振廻して、他の者らに、気を持たせていやがる――と、わしはいつもの僻みで、
「馬鹿あいえ。ここにいて、世間がそんなに見えて堪るものか。ムダ口を叩かずと、もっと力を入れて腰を揉め」
と、叱りとばした。
ところがその翌々日。役人衆が五人見えて、
「牢頭。今日より獄人どもに四日間ほど、労役申しつけるゆえ、左様心得ろ」
犬潜りの口から、わし達は外へ出された。一イ二ウ三イ四ウ……と頭数を数えられて、
「十九名だな」
「へい」
「逃亡などたくむ者は、即座に突き伏せるから心得ておけ」
役人衆は、素槍の先を、獄人たちの鼻の先へひけらかしていった。
驚いた事には、猿のことばが、あたっていた事であった。役人衆は勿論のこと、牢番までが具足を着ていた。世間には、戦争が起っていたのだ。
わし達は皆、何百日目で広い空を仰いだ。金華山の上のお城を見た。稲葉山の城である。
城は依然としていたが、奉行所の外門は、焼けていた。近所の侍屋敷から河向うの町家も、所々、焼け跡になっていた。
獄人は、わしらばかりではない。他の牢からも労役に出たので、二百人近くもいた。仕事は、焼け跡の灰片づけであった。