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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
Read 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 173,309 characters · 352 screens
もしこの一戦に、秀吉討死と聞えたなら、母も妻も、そちらの手で、潔う処置してくれい。城は火となし、小屋一棟も焼き残すなよ)
それを、伝え聞いた将も兵も、みな血を沸らせて、瞼を熱くした様子である。その猿殿のお胸のうちを思い、湯漬を共に食りながら、出陣までの半夜を、母に侍して機嫌を取っておられるのを見ると、わしは事もなげなそこの笑い声を、他耳に聞いてはいられなかった。
同時にわしの欣びは裏書された。――このお方のためというては狭いが、このお方が喜びを整理し支配してくれたら、世の中は明るく強く美しく、真の平和になろうと信じられた。その馬前に死ぬことは、無駄でないと心を固めさせられた。
わしのみではあるまい。
恐らく、三万の将兵は、みな等しい気持を誓っていたに違いない。
真夜半を過ぎると――
早くも一番貝が鳴る。二番貝が鳴る。
陣列、馬揃い。そしてほどなく、先鋒の部隊から、徐々に、東へさして進軍しはじめた。
大手口の欄干橋に、床几をすえて、猿殿は、出陣隊伍を閲兵しておられた。
ざく、ざく、ざく……
足なみは、一糸みだれぬ音を刻み、猿殿の前を無限に流れて行く。