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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
どうだ!
――睨むように宙天を見つめて、彼は、息の音をとめていた。だが、どうしたんだろう? 瞬時、また瞬時、宙へあがった八寸玉は、雲の中へでもはいってしまったようにいつまで何の光もない。
どかア――ん。
莫迦みたいな音が、真っ暗な空の奥にひびいた。
「黒玉だッ」
誰かの口から、こう絶叫すると、唖然としていた一同が余りのことに、舌をもつれさせて、
「ど、どうしたんだ七!」
「くろ、くろ、黒玉だぞ七!」
泣くように吃って、地だんだを踏んだ。
七は、白い顔をして、筒のそばに腕組をして立っていた。
「静かにしろ、まだ勝負はつきゃあしねえ」
「だ、だって、兄き」
「ええ、うるせえな。――おいッどうした! そっち組は」と、やけのように呶鳴った。
相手の案外な失敗に、じっと鳴りをしずめていた慎吾たちの組は、七のやけな声を聞くと、いちどに侮蔑をこめた笑いを爆発させて、
「何と申したのか、もういちどいえ」
「こっちはすんだぞ」
「ううむ、美事だった」
「なぜすぐに打揚げねえのだ。ことによったら、てめえのほうも、黒玉かも知れねえぞ」
「ばかを申せ。いま慎吾の腕を見せてやるから胆を潰すな」