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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
と、鐺を上げて、ぶるぶると、右手の拳に、鍔音をさせた。
(この男か)
と、一角は、そういって、ジリジリと前へ迫ってくる鋭い眉目を見上げた。彼の淡い四年前の記憶では、まだ竹刀をかついで、よく道場通いの途中で見かけた前髪の小童であったが、今仰ぐと、二十歳か、一か、末娘のお信の方に似てやや丸顔な、唇の大きな、そして、健康にはちきれている逞しい青年だ。
(……ウーム、なるほどできるな)
直感的に一角も、ぴりっと、構えを、呼吸を、反射しながら、
「丈八!」
と、威圧的に、あびせて、
「いつぞや、青砥弥助と湧井半太夫の両名から、貴様に伝えたことがあろう」
「だまれ、この場合に。――それを問うのではない、何で! 何の用があって! 女ばかりの留守を狙って」
「それは、てめえの姉に訊け。おれは、お八重の媚に釣られて来たまでの戯れ男」
「な、なにっ」
「しかも、こっちは旅の人間、不義をあらだてては女の損――まあ、それは後の裁きにまかせる。――俺は、さし当って、会ったが幸い、てめえに糺す一言がある」
「恥知らずめ」
丈八郎は、憎悪そのものの眸を、俯つ伏している姉へも投げた。が、すぐそれが、一角の眼を見ると、よけいに、焔となって、