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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
丈八郎は、
「泣くな」
と、宥めて、
「おまえと、わしは。……おまえと、わしだけは。ほんとの武士の子だ、武士の娘だ」
と、蒲団ぐるみ、抱きしめた。
そこへ、裏町の――軽輩な家中へ内職の仲継ぎをしている老人が、見舞に来て、憤然と、
「丈八郎殿、貴公、とんだ濡れ衣をきておるぞ」
と、尖った拳を、膝において、いうのだった。
「何事ですか、この、丈八郎の冤罪とは」
「貴公、清水一角から、金を取っておるか」
「ばかな」と、一苦笑に、
「なんで、彼奴のごとき、人非人から。――恨みこそあれ、金子などを」
「ところが、世間は、そう視ておらん。――例の、湧井と青砥の二人が、脱藩した事から、貴公にも、疑いがかかっておる。一角とぐるになって、米沢藩の腕利きを、他藩へ引きぬいたのだと申しおる。――でなければ、お八重どのが」
と、硬骨老人も、そこだけは、少し、遠慮していうように、
「――一角について、逃げるわけもないし、それを、兄たる丈八郎が、黙って見ておる理もないと。――ま、一理あるな。そう申しおる」
「ウウム……左様でござりますか」
「処分せいとか、斬れとかいう声が高い。もし、重役が、家中の声に動かされると、切腹とくる。