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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens

Aozora Bunko

「何しに」

「金が降って来やがった」

「けッ、金が――」

蔵六は、ぴんと突っ立ったが、慌てて、しゃがみ直して、

「脅かすない。てへへへ」と、わら草履の土を、枯れ草へ叩いて、青い迷走の溝川を泣きたそうに見つめた。

「嘘じゃねえよ」と、卯平は、その溝川のすぐ向う際まで歩いて来て、

「俺も、吃驚したさ。――朝、窓の戸を開けるってえと、茶袋に、石でも入れたような物が、転がり落ちた。また、おめえン家の悪太郎でも、悪戯しやがったかと思って、ひょいと、拾って見ると、中にゃ、金が小判で二十両」

「えッ、二十両」

「おまけに、包の上に、雲霧と書いてあるんだ、雲霧と」

「しまった。――いや、た、大変だそいつあ」

「雲霧は今、伝馬にいて、現に、おめえの持ち牢だろうじゃねえか。仰天して、そいつをそのまま、お係の御吟味与力、高梨小藤次様のお屋敷へ、駆け込み届けをして来たという理なんだが、いやもう、今朝みたいに、胆をつぶした事はねえ」

「そうかい。ウウム……じゃもう届けてしまったのか。で高梨様は、何とか、いっていたか」

「不思議だ、不思議だと、繰返しているばかりよ。――なぜなら、俺の家へ、金を投げ込んだ奴も雲霧なら、雲霧が、世間に、二人出来ちまッたことになる。