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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
どれほど、損をうけたか知れねえんだぞ。その上、また娘に承知で会わせてやる大馬鹿がどこの世界にあるものか――」
「――そうか、じゃ、頼むめえ」
雲霧は廊下へ身を退くと、
「あッ、うぬッ、何処へゆく」
と、権内は、ぱっと先へ廻って、薄い灯影の洩れている土蔵の網戸を背負って、立ち塞がりながら、
「会わせねえといったら、金輪際、会わせる事あ出来ねえんだ。足元の明るいうちにとッとと消えて失せねえと、ここから、すぐ前の番屋へ呶鳴って、引ッ縛るからそう思え」
「父っさん、おめえはさっきから、番屋番屋と脅かすが、そんな者にびくつくような雲霧じゃねえぜ。悪く足掻いて、怪我でもしねえうちに、退いてくんな」
「くそでも食らえ、大盗ッ人め。また娘に畜生のたねでも孕ませようという量見だろう。あんまり代地の権内を甘く見るなよ」
「どうしても、退かねえな」
「会わすも会わさぬも親の権利。骨が舎利になっても、動くもんか。帰れ帰れ、色情狂め」
「勘違いしちゃいけねえ。俺ア詫びに来たんだ一目顔を――」
「それ程、見てえものならば、うぬが生ませた餓鬼だけは、たった今、ここへ連れて来てやるから、背負って帰るとも、殺すとも、好きなように始末をしろよッ」