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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Read 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 178,609 characters · 362 screens
吟味与力の高梨小藤次は、同じ役所に、同心見習をしている子息の外記だの、役所外の目明しや役人を四、五人ほど連れて、
「べつに、変った事はないか」
と、見廻って来た。
交代した牢番は、みじんも異状のない事を答えた。牢路地の辻に、他の者を残して小藤次は、子息の外記と二人だけで、雲霧の牢の前に立った。
「…………」
雲霧は、黙って、頭を下げた。
「どうじゃ」
「へい」
「昨日、申し渡したことは、考えておいたか」
「一向に考えようがございませぬ」
「何といっても、そちは真の雲霧ではなかろうが」
「どういたしまして。雲霧仁左衛門に、相違ございませぬ」
「よほど、死にたい奴じゃの」
と、小藤次は、子息の外記と、顔を見あわせて苦笑しながら、
「後悔いたすな、獄門の日は、迫っておるぞ」
「こうして、静かに、考えれや考える程、罪業の怖ろしさがよく分りました。――すべて消滅する日が、待ち遠しゅうございます」
「ふーム? ……」
高梨小藤次は、疑惑にくるまれた顔をして、そういう闇の中の雲霧を、じっと、鋭い眼で、見つめていたが、やがて、
「よい覚悟だ。――其方ども五人の賊党は、明後日、千住のお処刑場において、刑に行われる事に相成ったから、左様心得るがよかろう」