Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんきだんクラブ

奇談クラブ(全)

野村 胡堂

Lesen Sie 奇談クラブ(全) (しんきだんクラブ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 104.139 Zeichen · 208 Bildschirme

Aozora Bunko

「これは母の形見、私に取っては、思い出の深い振袖で御座います。」

「…………」

手負は僅かに身を動かして、懐かしそうに肩から袖へ、朝陽の淀む自分の振袖を眺め廻しました。

「母はこの振袖を身に着けて、旦那様のお情けを頂きました」

「何、何?」

「もう三十年も前の話――、旦那様はとうにお忘れかもわかりませんが、一生に一度の恋をして、破れ草履のように捨てられた私の母は、それを怨み続けて亡くなったので御座います」

総左衛門は崩折れるように、引き倒された釣鐘に凭れました。犇々と思い当る様子――、そう言われると、藤色の大振袖を着た三十年前の恋人の姿が、まざまざと老の眼の底に蘇返って来ます。

「門前の長屋に住んだ貧乏な仕立屋の娘お蝶、美しくも可愛らしくもあった相ですが、相生長者の跡取息子と思い思われて、一時はどんなに喜んだことでしょう。親にせがんで、藤色の大振袖を拵えてもらい、お邸の木立の蔭、物の隈などで、逢瀬の嬉しさを重ね、行々は相生長者の嫁にと、独り極めに夢のような楽しい日は続きました。やがて人を頼んで表沙汰の嫁入話になると、身分違いだからと剣もほろろの挨拶、それからどんなに呼び出しても長者の息子は姿を見せず、間もなく武家から美しい嫁が来て、母のお蝶はむしり捨てた花のように振り向いても見られなかった――ということです」