Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

Lesen Sie 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 209.260 Zeichen · 418 Bildschirme

Aozora Bunko

六

こんなすがたを不意に見せて、介三郎を驚かせては済まないと考えたにちがいない。かれは土間の戸をそっと開けて裏へ抜けて行った。――井戸がある。

小桶へ水を汲みあげた。額の血をぴしゃぴしゃ洗う。手足の泥、着物の血しおなど、星明りに見つけて抓んで水に落した。

「…………」

ほっと息をつきながら見まわした。屋根をわたる小猫の跫音にもまだ神経がすぐ衝かれるらしい。が、もう追って来る者はないようだった。

小桶の水をあけて、また満たして、終りの一杯を、かれは、明りのもれている濡縁の下まで持ち運んで来た。そして片足ずつ入れて雑巾で拭いていると――

「は、は、は」

「あははは」

閉めてあるそこの障子のうちで、明りも揺らぐばかり、大きな声してたれか笑った。

一方の声はたしかに介三郎にちがいないが、もうひとりは誰だか分らない。――勘太は、そこの部屋に、客が来ていようとは、いままで、気づかなかったので、急に、身をすくめて、上がるのをためらった。

部屋の中はまた、ひとがいるのかいないのか分らないほど、ふたたび小声に返っていた。夜も更けているし、同じ棟に眠っている相客たちもあろうかと、遠慮しているらしく思われる。