Japanische Klassiker mit Furigana
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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
Lesen Sie 湖畔亭事件 (こはんていじけん) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.335 Zeichen · 137 Bildschirme
あれほどの勢いで短刀をつき立てあれほどの血潮が流れたのですから、被害者は、死なぬまでも、必ず非常な重傷を負ったことでしょう。鏡の像に声はなくとも、彼女は恐しい悲鳴を発したことでありましょう。私は甲斐なくも、堅い鏡の表から、その悲鳴の余韻をでも聞き出そうとする様に、じっとそこを見つめていました。
それにしても、宿の人達は、どうしてこうも鎮まり返っているのでしょう。もしかしたら、彼らはあの悲鳴を聞かなかったのかも知れません。浴場の入口の厚いドアと、そこから女中達のいる料理場までの距離が、それを遮ったのかも知れません。そうだとすると、この恐しい出来事を知っているものは、広い湖畔亭の中で、私ただ一人のはずです。当然私は、この事を彼らに知らせなければなりません。でも、何といって知らせればいいのでしょう。それには覗き眼鏡の秘密をあかす外はないのです。どうしてそんな恥かしいことが出来ましょう。恥かしいばかりではありません。この常人では判断も出来ない様な、変てこな仕掛が、どうしたことで殺人事件と関聯して考えられないものでもありません。生来臆病で不決断な私には、とてもそんなことは出来ないのです。