Japanische Klassiker mit Furigana
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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
Lesen Sie 湖畔亭事件 (こはんていじけん) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.335 Zeichen · 137 Bildschirme
三十一
実は何万円とも知れぬ莫大なお札の束だったのです。それから足の下へころがった品は、これが又妙なもので、医者の使うガラス製の注射器でありました。
その時の、河野の慌て様といったらありませんでした。ハッと赤くなり、次ぎの瞬間には真青になって、大急ぎで落ちたものを拾い込み、鞄の蓋を閉じると、腰かけの下へ押込んでしまいました。私は今まで、河野という男は、理智ばかりで出来上った、鉄の様な人間かと思っていましたのに、このうろたえ様はどうでしょう。彼はきわどい所で弱点を暴露してしまいました。
河野がどの様な手早さで鞄のふたをとじたとて、その中のものを私が見逃そうはずはありません。河野も無論それを知っているのです。知りながら、彼はやがて顔色を取り直すと、さも平気な様子で、前の会話の続きを話し出すのでした。
莫大な紙幣と注射器。これが一体何を意味するのか、余りの意外さに、私は暫く物もいわないで思いまどっておりました。
三十一
しかし河野がどんなに沢山の金を所持していようと、又は商売違いの医療器械を携帯していようと、それはただ意外だというに止まり、別段とがむべき筋のものではありません。