Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

Lesen Sie 湖畔亭事件 (こはんていじけん) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.335 Zeichen · 137 Bildschirme

Aozora Bunko

といって、このままじっとしている訳には行きません。私は殆ど五分間の間経験のない焦燥に攻められながら、もじもじしていましたが、やがてたまらなくなって、いきなり立上ると、どうするという当もなく、兎も角も部屋を出て、すぐそばの広い階段をかけおりるのでした。階段の下は廊下がT字形になっていて、一方は湯殿の方へ、一方は玄関の方へ、そして、もう一つは奥の座敷へと続いていましたが、今私が大急ぎで階段をおりたのと、殆ど出あい頭に、奥の座敷へ通じる廊下から、ヒョッコリと人の姿が現れました。

見るとそれは相当の実業家らしい洋服姿で、落ちついた色合の、豊かな春外套を波うたせ、開いた胸からは、太い金鎖がチラついていました。そして右手には重そうな大一番のトランク、左手には金の握り太のステッキです。しかし夜の十一時近い時分、宿を立つらしいその様子といい、重いトランクを自身手にさげているのも、考えて見れば妙ですが、それよりも一層おかしいのは、出あい頭で、私の方でも少からずびッくりしましたけれど、先方の驚き方といったらないのです。彼はハッとした様に、いきなり後へ引返そうとしましたが、やっと思い返して、いかにも不自然なすまし方で、私の前を通り抜け、玄関の方へいそぐのです。