Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
私には跫音も何も聞こえなかったが、しじゅう死生の巷を往来している彼は耳さとくそれを聞きつけたらしい。
やがて彼はしずかに身を起こして、音のせぬように熊笹の中から這い出した。
「音をさせぬように、そっとついてきなさい」言われるままに、私もあとから這って行った。
「ほら、あそこに黒い人影が立っているでしょう。いま溝の中へ降りるところですよ。ほら降りてゆきました。これから奴は橋の下へ行って仕事をはじめるのです。もう少しこちらへ出て見ていなさい。そして私が合図をしたら急いでまた熊笹の中へかくれるのですよ」
こう言いながら彼は大胆に立ち上がって、はだしになって足速に歩いて行った。橋の上まで来ると、彼はそこにそっとしゃがんで、五六分間じっとしていた。しばらくすると橋の上へ一尺ほどの黒いものがにゅっと現れた。彼は大急ぎでそれを手にとって何かさがしていたが、ものの五秒もたたぬうちに手をあげて、私にあっちへ行けという合図をした。それからすぐに、自分でも飛鳥のような敏捷さをもって私の方へかけ出してきた。もっとも、それでいて彼の跫音はほとんど聞こえないくらいだった。
私たちは無言のまま再び熊笹の中へ身を横たえた。