Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
四月十八日
息は殺していたが、胸の大きな動悸が、一寸もある厚い板の扉をとおしてあの人の耳へはいりはしないかとひやひやした。
あの人はこの前と同じように封をきって、やはり一分間足らずで読みおわって、机の上へ文殻を投げ出し、それから巻煙草に火をつけた。妾の眼のせいか、今日はあの人はかすかに慄えているようだった。突然あの人は右の腕をのばして、また手紙を拾い上げ、しばらく息を殺して文句に見入っているようだったが、やがてそれを下へおいて、その上へ両手をのせ、両手の上へ顔をふせてしまった。今度こそ妾にはあの人の全身が細かくふるえているのがはっきりわかった。
自分の夫が、自分以外の女を思って慟哭し、ふるへ、もだえているのを見てこらえているなんて、妾は、我ながら自分の神経の抵抗力にあきれたくらいだ。
四月十八日
妾は昨夜のうちに何もかも決心した。しかし、朝、何事もなかったように、いつもと同じような顔をして起きてきたあの人の顔を見ると、妾はつい気おくれがして、何も口へは出せなかった。
しかし、あの人が出てゆくと、すぐに口惜しさがむらむらとこみ上げてきた。だが、まだ口惜しさでも感じていると心に張りがあって生きてゆかれる。