Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
Lesen Sie 神州天馬侠 (しんしゅうてんまきょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 511.765 Zeichen · 1011 Bildschirme
人目もなく泣きながら若侍の腕にすがりつくのを、
「えい、きさまも片われだ!」と、大きな掌で頬をなぐった。
娘はワーッと声をあげて泣く。百姓は気狂いのように猛る。それを仮借なくズルズルと引きずってきて、やがて、大久保石見が酒宴をしている庭先へすえた。
「なんだ、そのむさくるしい人間は?」
石見守は、近習に酌をさせながら、トロンとした眼で見おろした。若侍は膝をついて、
「こいつ、ただいまご城下の辻で、信玄の碑のまえへ供物をあげながら、徳川家のことを悪ざまにのろっておりました」
「斬ッてしまえ」
酒をふくみながら石見守はかんたんにいった。
「ついでに、あの信玄の石碑なども、濠のそこへ投げこんでしまうがいい。あんなものを辻にたてておくから、いつまでも百姓や町人めが、旧主をわすれず新しい領主をうらみに思うのだ」
若侍はただちに刀を抜いた。
石見守は盃を重ねて見てもいなかったが、バッと音がしたので庭先へおもてを向けてみると、もう百姓と娘の死骸がふたところにつッ伏していた。
「殿さま!」
そこへ、ひとりの小侍が、あわただしい足音をさせて、一封の早打状をもたらしてきた。
大きな黒印がすわっている。