Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

Lesen Sie 大菩薩峠5 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.120 Zeichen · 516 Bildschirme

Aozora Bunko

四辺の光景がどうであるかということは一向にわかりません。またいずこに向って助けを呼ぼうとするものとも見えません。ただ自分を載せているこの家が、徐々として動いていることがわかります。出水の勢いは急であったけれど、家の流される勢いはそれと同じではありません。

続け打ちに打つ半鐘の音は、相変らずけたたましく聞えるけれども、さきほどまで遠近に聞えた助けを求むる声と、それに応うる声とはこの時分は、もうあまり聞えなくなりました。面憎いことは、この時分になって雨の歇んだ空の一角が破れて、幾日の月か知らないけれども月の光がそこから洩れて、強盗提灯ほどに水の面を照らしていることであります。

その月の光に照らされたところによって見れば机竜之助は、屋根の棟にとりついたまま、さも心地よさそうに眠っていました。月の光に照らされた蒼白い面の色を見れば、眠っているのではない、ここまでやっとのたり着いて、ここで息が絶えてしまったのかも知れません。屋根はそのままで流れてはとまり、とまっては流れて、笛吹の本流の方へと漂うて行くのであります。

屋根は洪水の中を漂って行くけれど、それはほかの家につっかかり、大木の幹に遮られ、山の裾に堰き留められて、或いは暗くなり、或いは明るくなり、或る時は全く見えなくなったりして、極めて緩慢に流れて行くのであり