Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
実際、ある客の少ない、雨のふる晩、彼女が私のテーブルの前にすわって、妙にあたりをはばかるように、おどおどしながら話した身の上話をきいて、私はすっかり同情してしまったのがはじまりなのである。どうかしてこの女を助けてやりたいとその時すでに私は決心したのであった。あとから考えてみると、こんな決心は、中産階級の青年に特有の、虫のいい、利己的な決心であったのだ。なぜかというと、少しも家族的係累のない私にとっては、当時役所から貰っていた月給は、女一人のつましい生活をささえるには十分だったし、その安価な代償を払えば、一人の女を救ったという満足と一人の女の感謝とを永久に味わうことができたのだもの、何しろこんなことは男子にとって名誉どころかじゅうぶん屈辱に値する一種の不正取引なのだ。
それはとにかく、二人はそれから一年もたたぬうちに正式に結婚した。ところが、ちょうど結婚の間ぎわになって、私は四年前雪子との間にかわしたかたい約束を思い出した。その時までは、たまに雪子のことを思い出しても、憎むべき裏切女として思い出すだけだったが、折も折、いざ、みな子と結婚しようとする時になって、これまで夢にも考えなかった考えが不意に、まるでだまし討のように浮かんできたのだ。