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Japanische Klassiker mit Furigana

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あるたんぼうきしゃのはなし

平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕

平林 初之輔

Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme

Aozora Bunko

あの人は無感覚な顔をして、だまって妾のするままにさせていました。まるで、ちゃんとそのことを予期していたという風に、ちっとも吃驚せずにですよ。

この二時間近くの目的なしの散歩の間に妾たちがどんな話をしたかは一々おぼえていますけれど、そんなことを今お話ししていたらきりがありません。とにかく妾たちは、その間にどうしても、これから先別々にはなれて生きてゆくことはできないような気持ちになってしまったことは確かなんです。

あの人はタクシーで妾を送ってくれましたが、車にのっている間、あの人の右の手と妾の左の手とはしっかりとむすびついて、まるで手の先の毛細管で二人の血管がつながって、二人の血がごっちゃになってお互いの身体に流れてゆくような気持ちでした。

別れぎわに妾たちははじめて名刺を交換したんです。それまでは二人とも名前も何も知らずに、ただ一人の男と一人の女として、原始人のように愛を語っていたのです。そしてそれでも実際、差支えはなかったのです。妾にとってはあの人は男性そのものだったし、あの人にとっては、妾が女性のただ一人の代表者だったのだから。おまけに結果から考えると名刺の交換などはしない方がよかったのです。