Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
「何か心配があるのね、そして、それは妾に関係のあることなんでしょう、きっと。その外のことでそんなに心配なさるわけはありませんから」
妾はこう言って、あの人の右の指にさわりました。
「忘れていたんですよ、僕は」とあの人は案外何でもないことのように平気で答えました。「僕に妻も子供もあるってことを。もっと詳しく言えば、そのことを忘れていたわけじゃないんですが、そんなことは僕たちの愛の障害になる力はないものだと思っていたんです。僕たちの愛は絶対だから、どんな障害でも征服できると思っていたんです。ところが――」
妾はここまで聞いているうちに眼の眩むのをおぼえました。よくその場にたおれてしまわなかったか今でも不思議に思うくらいです。
あの人は妾の心が、思いがけない、ひどい衝撃を受けたのを見てとると、あわてて言いたしました。
「もちろん、これは何でもないことなんですよ。僕が貴女を愛するということは絶対なんですから。ただそれがほんの少しばかり障害を受けただけなんです。ほんの少しです。だがそれが意外に強かったというだけなんです」あの人の言葉はしどろもどろで辻褄があっていませんでした。