Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
ある時、谷村はごく婉曲に妾に言いよったことがありました。それ以後というものは妾はこの稽古に出るのが一つの重荷になってきました。というのは、その頃、あの人と妾とは幸福の絶頂にたっていましたので、他の男などは妾の心の中へはいってくる余地がなかったからです。もっとも一緒に芝居をしている以上、谷村を蠅のように追っぱらうわけにはいかなかったのは無論ですが、それでも妾は、あの人と世にも楽しい時間をもったあとで、稽古場で谷村と顔をあわせるのは何とも言えない、嫌悪と侮蔑とのまじった圧迫を感じたものです。谷村が、この劇団の座長格でもあり、演出者でもあり、おまけに妾の相手役ですらなかったら、妾は、露骨に妾の気持ちを相手にしらせる手段をとったにちがいなかったと思います。けれども、芝居というものは、特にカルメンのような二人の主役の呼吸がぴったり合っていなければならぬ芝居では、相手役同士の間に何か心のわだかまりがあると、とても成功するものじゃありません。で妾はじっと我慢していました。それでも妾の気持ちがすなおでなかったせいかどうも稽古がうまくゆきませんでした。稽古中に突然あの人のことを思い出して台辞を忘れたことなどもあったくらいです。