Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
その時は夜の十二時頃と仮定しましょう。妾は奥さんのことを思ってきっと泣くにちがいないわ。
そうすると貴方は妾を泣かせまいとして色々慰めて下さるでしょう。そのくせ貴方自身も心の中では妾の百倍も泣いていらっしゃるくせにね。妾たちは泣きながら闇の中を揺られてゆくのです。汽車の中には、どうせ一昼夜も乗れば辺鄙なところでしょうから、妾たちの外には誰も同乗者はいないでしょう。妾たちはきっと抱擁するでしょう。そして貴方は妾に奥さんのことを思わせまいとして、妾は妾が奥さんのことを思っていると貴方に思わせまいとして、しかも互いに相手の思っていることをよく知りあいながら汽車に運ばれてゆくのよ。
そのうちに貴方が、妾のために何もかも忘れておしまいになる瞬間が来るでしょう。妾もその時は貴方のために何もかも忘れてしまうわ。二人の心持ちの動きは言いあわせたように一致するでしょうから、妾そんなことばかり今空想してるのよ。それはそれは淋しいのよ。そして何とも口で言えないほど、筆でかけないほど、幸福だわ。
では左様なら。ここのところへ接吻しておくわよ。
T子
N様
これは昨日さめかかった興奮を新たに燃え上がらせるためのあの人のトリックなのだろうか。