Classiques japonais avec furigana
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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Lisez 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 414 caractères · 289 écrans
に聞く浄瑠璃の一節にも人事ならぬ暗涙を催す事が度々であった。日ごとに剃る月代もまだその頃には青々として美しく、すらりとして丈高く、長い頤に癖のある細面の優しさは、時の名優坂東三津五郎を生写しと到る処の茶屋々々にいい囃されるが何よりも嬉しく、わが名をさえも三彦と書き、いつかは老の寝覚にも忘れがたない思出の夢を辿って年ごとに書綴りては出す戯作のかずかず。心なき世上の若者淫奔なる娘の心を誘い、なおそれにても飽き足らず、是非にも弟子にと頼まれる勘当の息子たちからは師匠と仰がれ世を毒する艶しい文章の講釈。遊里戯場の益もない故実の詮議。今更にそれを悔んだとて何としよう。自分を育てた時代の空気は余りに軟く余りに他愛がなさ過ぎたのだ。近頃日光の御山が頻に荒出して、何処やらの天領では蛍や蛙の合戦に不吉の兆が見えたとやら。果せるかな恐ろしい異人の黒船は津々浦々を脅かすと聞くけれど、ああこの身は今更に何としようもないではないか……。
種彦は書きかけた『田舎源氏』続篇の草稿の上に片肱をついたまま唯茫然として天井を仰ぐばかりである。物優しい跫音が梯子段に聞えた。そして葭簀越しにも軽く匂わせる仙女香の薫と共に、髪は下り髱の糸巻くずし、銀胸の黄楊の櫛をさし、団十郎縞の中に丁子車を入れた中形の浴衣も涼しげに、小柳の縞の帯しどけなく引掛