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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
四 雪山朝暮
烈風が画架を吹き飛ばそうとする勢いに、杭を打ち込んでしばりつける。腰掛は大きな朽木。山男が後で――山に対している私が、手も足も震えどおしだった、と言う。それは恐らく、寒さのためばかりではなかったろう。
七時頃、満月が峠の方の尾根に昇る。光芒が鋭い銀線の束をらんらんと射出する。赤石は昼間とちがって、空の底に恐ろしく低くうずくまり、圏谷をもつ北沢の雪がクッキリと照り映える。あたりは霜に挫がれた草や枯木の幹、岩片などがしらしらと浮き、影がゾッとするほど深い。大きな火を前にして、山男が枯枝の箒で払った古蓆の座はむしろ清く、石の畑からもたらした青菜を投げ込んだ味噌汁に、湯気の雲を吐きつつ食う飯は、常の味いでないこというまでもなく、西の小窓を払えば、風と共に赤石の貴い姿が入ってくる。廃屋の主じぶりも、まことに心ゆくばかりだ。しかし火が小さくなると夢も破れ勝ちで、幾度か山男を煩わして暁に及ぶ。
所ノ沢の赤石岳の挿図
四 雪山朝暮
四時半頃には仮寝の床を捨てて、火を盛んにする。北斗が千挺木の方、狭い谷の空いっぱいに横たわる。風はようやく落ちたらしい。赤石は、光沢のない雪がほの白くよどんでいる。