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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
七 小黒部の上流
風雨の音も鳥の声も紛らすように、蓄音器が鳴らされる。そして亭主役の人物は、客の持ち出す「山」の話よりも、世間という故郷の噂さに背景を飾って、せいぜい自分を引き立たせる、といった話し方に興味を持っていることが分る。そこで苦労性の客なら、――こんな淋しい山の中で、さぞ御退屈でしょう、などと、最初うっかり、慰問の意を述べたことさえ、(或いは相手の自尊心を傷つけはしなかったか)と、いくらか悔いる気持ちになったかもしれない。
七 小黒部の上流
小黒部の奥へ分け入ったのは、八月も中旬に入ってからだ。雪が一日一日と少なくなる――そう思うと、画因をそれに求めている私は、気が気でない。今度も同行は前と同じだ。小黒部の出合いで、林道から分れる小道には、小さな標木が立って「小黒部鉱山道」とある。それに入って行けば、石南がわだかまり、巨大な姫子松にさるのおがせがゆらめいて、細い山の背は木の根と落葉でできていると言ってよく、この辺に珍らしい、ふくよかにもの深い感触を、足の裏からも伝えてくる。助七によると、この辺は「馬のコヌカミ」という処だそうな。下りになって、南平は小黒部の河原に近く、椈、欅、七葉樹などの大木が、高く梢を連ねてほの暗い。