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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

その強い眼光に見据えられて、私は弱い涙の眼をしばたたく。しかしこの巨大な一眼も、なぜか少しうるんでいるようにも思われた。

朝は晴れたが霜うすく、地は珍らしく柔かだった。「今日はやわらぎだ」と山男は喜んでいる。昼近く太陽は幾度か浮雲におおわれる。これは山男の語では「日もどり」であった。日輪が隠れて、もとへ戻ったように思われる――といった風な意味らしい。赤石は全容を現わしているが、空の藍はようやく一抹の灰濁をおびはじめ、明らかに天気は昏迷の徴を呈してきた。山男は、米が明日までぐらいになった……と報告する。もうこれまでかなァ――と嘆息がもれる。

昼すぎ、峠へ聖の姿を求めて登る。空はもうまったく灰鼠の一色になって、雪は輝きを失い、谷はかえって寒冷のさ蒼い気を、はなやかに噴いている。大きな枝だらけの倒木に馬乗りになって、聖を仰ぎつつ暫し渋る筆をとりつづけたが、一刻、雪の峯角に冷たい利刃のような閃めきが明滅するや、南の空が怪しい温か味を潮したかと見る間に、いつもより早く、重い夕暮がのしかかる。

夜も珍らしく曇って、もう赤石の姿も拝めない。山男が「朝の日もどり」