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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
まるで怒ってでもいるのかと思うばかり。俺は、彼の気魄が、ひしひしと身に迫るのを覚えて、息を呑んだ。だがそもそも何が、彼の心をひきつけたものだろう。
この俺はと言えば、大きな花崗岩によりかかって、骨ばった身を宙にささえ、頭の上に広やかな雪田を負っている、一箇の年老いた偃松にすぎないのだ。この雪田は、土地の人間が「万年雪」とよぶもので、断崖の根にそって半月形をなし、秋も間近い今では、さりげない残雪に見えるけれど、春先きなどは、そのあたりこそ、恐るべき雪崩を起す源にほかならない。俺が今日まで、ここでどうにか暮してこられたのは、一つは、お隣りの大岩さんのお蔭と言ってもいい。
こうした俺のささやかな存在が、かりにも人間の心を動かそうなどとは、ついぞ思っても見なかった。――まったく長生きはしたいものだナ。とはいえ、俺はどうにも、面はゆくて弱った。何しろ肖像を描かれるなんぞ、この齢になっても、まったく初めての経験なのだから……。それにしてもあの男に、この俺の、幸運ではあるが、又苦難の多い生涯の事まで、果して察しがつくだろうか。
俺は周囲の岩さんたちや、向うの年若な偃松仲間や、美しい黄花石南花の連中と、たがいに顔を見合わせた。