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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
雪の中をおりおり、赤沢の持子が、卵や何かの食料、家からの荷物、友達からの手紙、そういった物を、届けてくれる。帰りには又、こちらからの音信など、ことずける。これは大切で、かつ楽しみな使者だ。私はその場で、堂守から、手紙の代筆を頼まれて、苦吟したりもする。卵はすぐ凍ってしまって、ひびが入る。剥けば、貴しや、氷の白ら珠。それを煮ると、白味が焦げついても、黄味のしんはジャリリ、と冷たい歯ごたえ。それが、この頃では、ひびから白味が融けて、あふれ出し、それなりまた凍って、つららになる。これが日毎、くり返えされる。一度、母の心ずくしで、小包の瓶の中は、なんと、好物の「あんこう」とは。凍りついた中味をあたためれば、肝や独活や焼豆腐まで、そっくり揃って、そのまま即席のあんこう鍋。夜の雪を聞きながら、この珍味で、静かに独りあげる盃――けだしこれなど、この山ごもりでの、おごりの絶頂であったか。
二月も末となれば、春の気配はようやく濃い。朝など、どことなく、冬にはなかった、一種、匂いのある空気が、ただよってくる。しっとりした、有機性の薫りだ。小寒く、さわやかで、もの懐かしくもあり、なにかしら愁い心をさえ誘うような……