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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

一様に、足を痛めぬよう、川へ陥ちいらぬよう、ひたすら脚もとに気を配っている、いじらしい人々!君は時に行き違ってから、思わず彼らを振り返って見るだろう。すると彼らもちょうど、君をふり向いて見ているところにちがいない。しかし、お互いに永くは見られない。岨道は崖から崖へ、はげしく屈曲しているから……。

時には又、温泉へ荷を運ぶ川下の村人にも会うだろう。これはいつも声高に話しながら行くので、すぐわかる。彼らの心は、足元よりもどこか少し別な処にあるらしく、余裕のある様子でやってゆく。だがこの峡谷の高岨道は、馴れた者でもむやみに安心のできる質のものでない。河原というものが無くて、青い水が足の底までえぐれこんで来ている、そんな処が多いのだ。広く谷筋の上下では、各所で命を落した猟師、漁夫、杣、荷運び、山林の役人、登山者など数多く、話や地名、記念碑などに、残っているが(谷などに人名を冠したのは、大がいそれ)、一と足を誤まって、道からじかに谷水に呑まれる村人さえ珍らしくないそうだ。この間も、六里の道を日帰りするため、夜なかから提燈をたよりに上ってきた女衆が、途中気づかぬ間に一人減っていた、居眠りでもして、川へ落ちたものらしい――そんな話も聞いた。