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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

というのを指摘してもらった。しかし矢口君の言う通り、どうもそれは馬とは受け取れぬもので、いろいろ想像を働かせてみても、何か動物の形らしくはあるが、馬とは申しかねる……間違いではないかと迷った。後に思えば、それは尾と胴体や脚の一部が現われただけで、頸から頭はまだ出ていなかったのだ。いわばそれは未完成の画馬の断片で、そこから天工の意匠を洞察できなかったのは、不覚ながら、一つは前述の瘠せ馬の先入観が働いて、そんな雄大な立派な馬を想い描き得なかったためだろう。その日は、どうひいき目にも、馬とは見えぬ雪の中の山肌を、思いきりわるく見返りながら、うかぬ心を抱いて森上へ戻った。そして写生帖やメモ、地図などを前に、あれこれと思いわずらったことだ。

数日後雨あがりの快晴に、また四谷に出かけた、もう六月に入っている。松川の畔から見やる碧空の中の雪峯群は、クッキリと浮き出し、先日来問題の馬は……あら不思議、見ちがえるほど面目を新たにして、いつかまぎれもない馬と化していたのだ。実に雄大奔放な天馬である。これほどの構図になろうとは、まったく想像の外だった。私は幾度か眼を拭って見直した。