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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

従って機会さえあれば、山村の人々にたずねて見るクセがある。

しかし今度――三十一年六月下旬――私が三年ぶりで細野へ画架をかつぎこんだ時は、もう時期が遅いので、雪形は恐らく崩れ去ったであろうと、半ばあきらめていたのだ。ところが来て見ると、宿の近くの田圃の中から主じの大谷さんが声をかけて、――今年は雪が多くて未だ代馬が見える、という。私は幸運に感謝した。五月雨雲の間に見え隠れする白馬連峯を物色するうち、やがて見覚えの代馬が所在を示した。さすがにまぎらわしい周りの露岩は多いけれど、まず完全といってよいほどの姿である。よほどよく出来た馬だと思う。これほどの名馬が最近まで世に出なかったというのは……と又しても嘆声が出る。

宿にも入らず私は庭先きで、感慨深く「代馬」を眺めていた。そこへ宿のおかみさんが来て、いろいろ話の中に、――種蒔き爺さんもまだ見えるほど陽気がおくれて……云々、その一と言を私は聞きとがめた。ここらで種蒔き爺さんといえば、さしずめ乗鞍だが、待てよ、少し可怪しいぞ、あれはここでは前山の蔭で見えないはず……あ、別ものか? 一瞬私の頭にひらめいたのが果してあたった。