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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

落倉にて

落倉小屋は客も無く、電燈などより、朧ろな新月と星とが無上にありがたい。

落倉にて

ここにつづいて、栂池、乗鞍までの十数日、まったく日々好日。晴れるも降るも、微妙な変化の美しい天地に囲まれて、激しく又楽しく仕事した。暦はすでに三月に入り、一日まず大快晴。前晩は飛雪のひまに半月がのぞいただけだが、早朝窓をうかがうと、明けやらぬ空に白馬三山が、劃然と現われ、六時二十分には峯々の雪朝陽を吸って、紅梅色に匂いはじめる。私のモティフは、白樺疎らな傾斜の奥に、白馬三山が、山越えの弥陀像そのまま、半身をのぞかす辺にある。

日昇って雪山は光輝を増し、天空濃藍に凝って僅かに一抹の巻雲を浮べ、白樺の梢紫をおびて色めく。午を過ぎると烟霞が山をかすめ、空を濁し、山は大きな影に浸って暮れて行く。上弦の月半天に大暈をおび、鑓、杓子おぼろに沈む。月の暈は、土地では「月の上りに日の下り」と言って、これが降る前兆とされるが、――今夜は「月の下り」だから降らぬ、とYが言う。

果して翌日も快晴。日射強く、雪の上に居て暑いくらいだ。雪面融け、スッペンジョ(藁靴の方言)を通して足が湿る。鳥声遠近に聞え、四十雀身辺に遊ぶ。