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にっき
日記
宮本 百合子
09 一九二三年(大正十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页
林町から借りた Victor の一号と云う蓋なしの小さい蓄音器がある。四十分も身を沈めて音楽をきくと、耳から次第に内へ気分はほごれる。律動で頭のかたまりがほごれ、次第に微風に押される雲のように心が動き出す。けれどもAが勉強して居るのでこれも出来ない。
自分は本をもって読み出した。少しも文字が切実に来ない。
自分は、肉体的に、頭から、コチコチになり段々小さく小さく体中、全存在が収縮して行くように感じた。
手で触れて見ると、真個に額などは、妙に肉が分厚になり、狭く低くなったようにさえ感じる。
自分の苦しさを細かく解剖して見る。理屈は抜き、生活に対する生々した要求の程度が自分とAと、著しく違うことに、根本の源因の一を置いて居る。
四時迄、私も相当につめて何かして居る。
Aが、帰る。自分は知らず知らず彼とともに心から愉快な変化、笑、お喋り、心の変った弾みの来ることを、期待する。
が、彼は、くつろぐことを知らない。暇があれば、花でもながめ音楽でも聞いて、一時間ゆっくりすることを知らない。すぐ机に向うか、大工をやる。此で、一つ、私の心は重くなる。
夕食後にしてもそうだ。