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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

と、蛭子顔で、いった。

「さようですなあ」

金五郎は、そう返事はしたものの、上の空である。さっきから、きょときょとと、駅前の方角を、不安の眸で、眺めまわしている。

大庭春吉は、それに気づいて、

「永田を待っとるのか?」

「はい」

「ほっとけ」

その語調は苦々しげで、放棄的だった。さっきの蛭子顔が、鍾馗面に、一変している。

「でも、たしかに、来ることになっとるんですが……」

「あんな奴、来にゃ来んでもええんじゃ」

「いえ、今日は、どうしても、来て貰わんことには……」

金五郎にとっては、港が日本一になるよりも、今は、親方の永田杢次の不参が、はるかに重大問題であった。このごろの永田の不行跡は、仲間うちでも、眼にあまるものとされている。もし、今日の、聯合組の親分衆の集まる遠足に洩れたならば、交際を知らぬ者として、進退問題になりかねない。金五郎は、気が気ではない。

やがて、雨合羽をまとった駅の小使が、停車場前の広場に、大きな振鈴をぶら下げて、出て行った。それを、カラン、カラン、カラン、と、大きく振って鳴らしながら、

「汽車が出ますよう、……汽車が出ますよう」

と、どなりだした。