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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
五分前である。
金五郎が、なおも、気をもんでいると、前方の町角を、番傘をさしたマンが、駈け足で、急いで来る姿が見えた。やっと、駅にたどりつくと、ふうふうと、息を切らしている。
「どうしたんじゃ?」
「あなた」と、マンは、夫を物かげに引っぱって行き、「気をつけて下さいよ。角助さんが、どこかで、あなたを汽車から突き落してやる、というて、小倉から、この列車に乗りこんだらしいです」
「ふウン」と、金五郎も、ちょっと、眼をぎらつかせたが、「それより、親方が来んが、お前、知らんか」
「また、メカケのところで、飲んだくれとるのでしょ。仕様がないわねえ。……どこが、あんな女、ええのか知らん……?」
マンは、歯ぎしりしそうに、口惜しい顔になる。
発車間際になって、一台の人力車が、「アラヨッ、アラヨッ」と、やけ糞のような掛声で、駅に向かって、疾走して来た。饅頭笠をかぶった車夫の顔からは、雨と汗とが一緒くたになって、だらだら流れ、白い湯気が立っている。
幌をめくると、永田杢次と、メカケのサクとが、一緒に乗っていた。泥酔している永田は、ナマコのように、骨なしになって、サクの膝のうえにうつぶし、ほとんど、意識がない。