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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

涎が、金五郎の着ている、セルの単衣をつたって落ちる。なにをいっているのかわからないが、サクの名が、数度、呼ばれたようであった。

改札口を出て、汽車に乗った。乗客たちが、なにごとかと、この騒動を見物している。

駅長が、ピリピリピリと、笛を吹いて、手をあげた。土地の顔役である大庭春吉の頼みで、永田と金五郎とが乗りこむまで、一分足らず、待ってくれたらしい。

列車が動きだしてから、サクが、あわてて、飛び乗った。

客席はすいていた。永田を二人分の座席に寝かせると、サクがやって来た。仕方なしに、委せた。

「大庭の親分さん、すみません」

サクは、首をちぢめる恰好で、遠慮勝ちに、そういったが、大庭春吉は渋茶をのんだ顔つきで、返事をしなかった。しかし、サクは、他人がどう思おうともかまわぬといった態度で、永田の傍により、これをいたわり、介抱した。もとは、左褄をとっていた女なのに、そんな派手さや、なまめかしさは、ちっともなく、むしろ、地味で、看護婦のようなところがあった。

九州本線と、筑豊線とは、折尾駅で交錯する。若松から、博多、熊本方面に行く者は、ここで、乗り換えるのである。